悲しみのバレンタイン

昔からバレンタインデーは父が会社やお店からもらってきた高級チョコを思う存分食べられる、わたしのためのイベントだった。今も夫が持ち帰るチョコを娘とわける日だ。
そんな私が今まで一度だけ、バレンタインに告白チョコをあげたことがある。
小学校5年生の時、クラスでも人気が高かった男の子にチョコをおくる計画をひそかにたてたのだ。おこづかいも少なく今のようにショコラティエがいるわけでもない当時のこと、近所のスーパーで比較的よさげなチョコを選んでサンリオのファンシー紙袋につっこむという貧乏臭いブツをドキドキしながら用意した。しましたよ。Too shy shy girlだった私にとって直接渡すことは暴挙に過ぎるため、目当ての彼の机の中にこっそりいれることに。
バレンタインデー当日早朝、前後左右確認、人影ナシ。Go! その時
「あーyamakimi、○○にチョコあげるんだー!」
いきなり声をかけてきたのは当時クラスに君臨していた女王A子ちゃん。ひぃっ!
A子ちゃんは活発でスポーツの得意な全方位的いじめっこで、気が弱くて運動音痴な私もかなりの被害をうけ日々泣き暮らしていたのだが、どんくさいわりに成績だけはよいのが利用価値ありと認められたのか、なぜか便利な側近としてお側におかれてもいた。
(なんでアンタがここにいるんだよ!いや、教室だからいてもおかしくないか。確認しなかった私が悪いんだ。…いや、確認したよ。したってば。どこで見てたオマエ!)
パニクって言葉もでない私を尻目にA子ちゃんはつづけた。
「yamakimiったら○○がすきだったんだー!へーぇ。だいじょーぶ、ぜったい秘密にしておくからね!」
うわぁウソくさい。今だったらそんな言葉を信じるのがバカだと言えるが、当時はクモの糸にもすがる思いで「ほんとにほんとにナイショにしてね」と涙目で懇願した。しましたよ。
慈悲深いA子ちゃんは友達だからとか応援するとかがんばれとかそんなようなことを言いながら「うん、約束ね!」とにっこり笑った。
…なんでこのとき「机に入れておく作戦」を変更しなかったのかなぁ。ほんとバカだなぁ11才の私。
当然の事ながら授業開始前に紙袋は他の男子に発見され、当然のごとく女王は「あーそれ、yamakimiからだぜ!」と半笑いで暴露し、クラス中からひやかされ、肝心の男の子からは迷惑そうな顔をされ、本当にいたたまれない一日を過ごしました。
もう2度とチョコなんてあげるもんかと誓った11の朝。


後日、いいことと悪いことがありました。
いいこととは、男の子がきちんとホワイトデーのお返しをくれたことです。その小さなキャンディーが詰まっていた薄いグリーンのカバン型プラスチックケースは、長い間私の机のひきだしにしまわれていました。いつのまにかどこかにいってしまいましたが。
悪いこととは、その日A子ちゃんも同じ男の子からホワイトデーのお返しをもらっていたことです。
ぇぇぇえええ? なんじゃそれー。